初夢
初夢
創作意欲よ起ち昇れ
昨年の枚方市展入選作を中心に、ゴーヤ俱楽部会員のみなさんの作品を展示しています。2024年度も素晴らしい作品を生み出すべく、スタートダッシュといきたいですね。
1月12日(金)~2月6日(火)まで PM1~6(水・木)休み
まなりやに素敵な正月飾りを届けていただきました。金銀の水引が華やかさをピリッと引き締める素敵な盛花です。今年もこうして皆さんに助けていただきながら『日常をアートに』を実践していきたいと思います。
前回のブログ、「お正月三題」の中で初夢について触れました。以下、2024年の初夢を書き留めておきます。お急ぎでない方はお読みください。
フランス旅行中、地下世界を巡る、という風変わりなバスツアーがあったので、最後の乗客として飛び乗りました。車掌は大柄な四十がらみの男で日本人でした。乗ってはみたものの、乗車券を買うお金を持ち合わせていないことに気がつきました。
「電子マネーでいいですか?」
「いいですよ。」
僕は携帯を男のおなかのあたりに差し出しました。男は画面を人差し指で軽くタップして、あれっ、と声を出しました。そして、不思議そうな顔をつくって携帯の画面が僕にも見えるように押し戻してきました。
「これ、何のマークかなあ」と男はつぶやきました。
見ると、支払額の数字の前にユーロでもない、不思議な印がついています。
「何ですか?」
「分かりません。」
男は少し困ったような顔のまま、まるで僕を試すような視線を向けてきました。
「ひょっとして、想定を超える引き落としになるかもしれないですね。」
「えっ!」
僕はあわてて携帯ごと手を引っ込め左のポケットにしまい込みました。そして、右のポケットから一握りの紙くずをつかみ出し、スチールの手すりのわきの小さなスペースに広げました。くしゃくしゃの紙くずの中にお金が紛れ込んでいるかもしれないと思ったからです。しかし、出てきたのは怪しげな大人の店の半券や割引券の類でお札らしいものは一つもありません。あきらめかけたとき男は意外に朗らかな調子で
「お子さんは学生さんですか?」と訊いてきました。
「いや、社会人です」
「そうですか」
男はそういって上半身を少しかがめ、小さなため息をつきました。そして、ひと呼吸間をおいてから、意を決したように核心的な質問を投げかけてきたのでした。
「百舌を飼ったことありますか?」
「百舌?鳥の百舌ですか」
「そうです、鳥の百舌です」
僕は拡げた紙くずを一つにまとめて右手で握りしめるとそのままポケットにねじ込みました。
「ないです。あれは飼うような鳥じゃないでしょう」
「そうですか」
男は残念そうな表情を浮かべたまま僕のみぞおちのあたりに視線を落としています。僕が嘘をついている可能性が否定できない、といった疑いの感情もその唇のかすかなふるえから読み取れました。
「不思議な鳥です。なんとも不思議です。」
男はあきらめきれないのか、うつむき加減に僕のみぞおちを見つめたままつぶやいています。
「不思議な生き物なんて世の中にはいくらでもいるでしょ」
僕は多少突き放すような口調になりました。しかし、その声が男の耳に届いている気配はまったくありません。男は、何か重大な連絡事項を読んでいるかのような、思いつめた表情でじっと僕のみぞおちに視線を向けたままです。もはや運賃を徴収することなど全く失念しているようにみえます。それどころか僕という人間すら、すでにここに存在していないかのごとくなのです。
「不思議ですか?」
僕は、男の耳に届かないと知りながら、独り言のようにつぶやきました。
そして、一か八か電子マネーで支払いをしてみようかとの覚悟を打ち消し、左のポケットの中で握りしめていた携帯からそっと指を離したのでした。
アートギャラリー まなりや
大阪府枚方市。京阪本線 牧野駅から徒歩3分のアートギャラリー。