《ほほえみ》って何?世代
《ほほえみ》って何?世代
水彩画を出展していただくことになった西村さんと座談中でした。たまたまご近所のおじいちゃんに連れられて来館中の、まだヨチヨチ歩きの女の子に、西村さんが話しかけることがありました。
手を引かれて、きょとんとした表情でこちらを見ていた女の子の目に、一瞬、緊張感のようなものが走ったように見えたのです。
西村さんは、『おばちゃん、本当はこんな顔なんよ』と言ってマスクをあごの下まで引き下げて、ほほえんで見せたのでした。
私は衝撃を受けました。
コロナ禍の中で、鼻から下をマスクで隠している人間に囲まれて育つ世代がいることに気付いたからです。子供たちが外出先で目にする人たちは例外なくマスクをつけているはずです。鼻から下の表情が無い人間が、むしろあたりまえの世界に生きているのです。これはただ事ではありません。
私たちの情緒を育むうえで、鼻から下の表情がいかに大きな比重を占めているか。
鼻で笑う、鼻にもかけない、奥歯に物がはさまったような、苦虫をつぶす、口元が緩む、微苦笑など、マスクで隠されている領域に起源をもつことわざや表情は少なくありません。口角泡を飛ばすなどはもっての外で、今どきありえない光景でしょう。
中でも、私が最も懸念し恐れるのは、脳の発達にとって黄金期とでもいうべき生後2〜3年を、《ほほえみ》のない世界に囲まれて生きていかざるを得ない子供たちの未来です。子供たちの脳の最も深い所に刻み込まれる、人間らしさにつながる表情の中に《ほほえみ》が欠落しているとしたら、どういうことになるのか。想像するだけで背筋が寒くなります。
一日も早く、子供たちに伝えなければならないのです。人はみな《ほほえみ》に包まれて生きていることを。
アートギャラリー まなりや
大阪府枚方市。京阪本線 牧野駅から徒歩3分のアートギャラリー。